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秋田地方裁判所 昭和34年(行)10号 判決 1960年9月19日

原告 長谷部幸一

被告 秋田県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は被告が別紙目録記載の不動産につき昭和二十四年十月三十一日なした買収処分及び昭和三十年十一月一日なした売渡処分はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求原因として別紙目録記載の不動産は元原告の所有であつたが昭和八年十月訴外工藤良亮に売渡し同人死亡後昭和二十三年七月九日その遺産相続人訴外工藤ミヱ外五名よりこれを買戻し翌十日原告名義に所有権移転登記を経由したところ被告は大沢郷村農地委員会が工藤良亮を被買収者として樹立した本件不動産に対する買収計画に基き昭和二十四年十月三十一日付買収令書によりこれが買収処分をした上昭和三十年十一月一日付売渡通知書により訴外伊藤幸治、同伊藤与吉に対しこれが売渡処分をした。然し右買収、売渡処分は真実の所有者である原告に全く関係なくなされたものであるから無効であること明らかである。よつてその確認を求めるため本訴請求に及んだと述べ本件不動産は地目山林とあるとおり当初原告において所有していた頃秋田県より植林補助を受け杉苗を植栽し原告が買戻した昭和二十三年七月当時は樹令十年乃至四十年に及ぶ杉立木が密生し雑木の繁茂した一小部分を除いては一帯に美林をなしていたもので到底農地等として買収の対象になるものではなかつたのである。それを原告不知の間に無謀にも原野として買収、売渡した背後には数十町歩乃至は数百町歩に及ぶ山林を所有する地主等が県職員或は農地委員会書記等と相謀り贈収賄等の不正を行つた疑惑を抱かせるに十分である。と附陳し被告の答弁に対し工藤良亭は昭和二十三年三月二十三日死亡しその遺産相続人である工藤ミヱ外五名は同年七月二十二日北海道に転籍居住していたのであるから被告主張の買収計画の樹立、公告、縦覧、買収令書の交付等被買収者を工藤良亮とした一連の右手続は死者を対象としてなされたものであり真実の所有者である原告は全く関知しておらず令書の交付もなければ代金を受領した事実もないのであるから第三者である原告に対し効力を生ずる余地はなく無効であることに変りはない。その他原告の主張に反する被告の抗弁事実を否認すると述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告の主張事実中別紙目録記載の不動産につき被買収者を訴外工藤良亮として原告主張の日これが買収処分をなしその主張のとおり売渡処分をしたこと。及び原告が工藤良亮の遺産相続人である訴外工藤ミヱ外五名から右不動産を買受け昭和二十三年七月十日その旨所有権移転登記を経由したことは認めるがその他の事実は否認する。秋田県農地委員会は昭和二十三年七月一日本件不動産の登記簿上の所有者工藤良亮を被買収者として買収期日を同年十月二日とする自作農創設特別措置法第三十条第一項第一号の規定(未墾地買収)による買収計画を樹立し同年七月十二日これを公告し同日より二十日間旧大沢郷村役場において縦覧に供する等所定の手続を経た後被告は工藤良亮を名宛人とする昭和二十四年十月三十一日付<ち>第No.二、五九六号買収令書により買収したものである。他方本件不動産の所有権は登記簿上同年七月十日相続を原因として工藤ミヱ外五名に移転し更に同日売買を原因として前叙のとおり原告に移転した。従つて同年七月十日以降の手続が原告に対してなされておらないことは事実であるが被告が買収計画を樹立した当時の登記名義人は工藤良亮であり同人を被買収者としてなした右手続は自作農創設特別措置法第三十四条により準用される同法第十一条の規定に従いその承継人に対し効力を有するのであるからその後なされた一連の手続もすべて工藤良亮の相続人及び原告にその効力が承継されているものと解すべきであり本件買収処分を無効とすべき理由は毫もない。従つてその後の売渡処分が有効であることは論ずるまでもないことである。尚本件不動産が地目山林となつていることは争わないが本件買収は前記のとおり未墾地買収であるから「農地及び牧野以外の土地で農地の開発に供しようとする」土地であることの認定を無効訴訟で争うことはできない。以上のとおりであるから原告の請求に応じ難いと述べ、尚原告は本件買収後その効力を認め旧大沢郷村農地委員会に対し名宛人を原告に書替えることを要請したことがあつたが容れられなかつたいきさつがあり処分庁においてもその後原告と種々話合いを進める傍ら調査を行つた結果本件不動産のうち合計三反四畝十七歩を不用地と認定して原告に売渡すべく試みたが実現を見ないまゝ現在に至つていると附陳した。(立証省略)

理由

被告が別紙目録記載の不動産につき訴外工藤良亮を被買収者として昭和二十四年十月三十一日付買収令書により買収処分をしたこと及び原告がこれより先昭和二十三年七月十日工藤良亮の遺産相続人訴外工藤ミヱ外五名より右不動産を買受け所有権移転登記を経由していたことは当事者間に争がないので右買収処分が真実の所有者である原告を被買収者としてなされなかつたことは原告の主張するとおりである。

然し成立に争ない甲第三、第五、第十二号各証の記載に証人佐藤義雄の供述及び双方弁論の全趣旨を綜合すれば昭和二十三年三月二十三日死亡した工藤良亮の本件不動産に対する登記名義は遺産相続人工藤ミヱ外五名が同年七月十日その相続登記を経由するまでその侭に放置されていたため、同年七月一日自作農創設特別措置法第三十条により右不動産の買収計画を樹立する際はその三、四ケ月以前よりの調査に基き登記名義者工藤良亮を被買収者としたもので、その後の同年七月十二日の公告並に縦覧手続等本件買収処分までの所要の手続はすべてこれを前提としてなされたものであることを肯認することができる。然して自作農創設特別措置法第三十四条により準用される同法第十一条及び第三十一条第一項第四項、第六条の規定によれば買収計画以下の手続は被買収者のその後の所有権の承継人に対してもその効力を有することが明かであるから、買収計画樹立の際本件不動産の登記簿上の所有名義者工藤良亮を被買収者とした前記買収計画及びその後の手続一切は買収計画樹立後右不動産の所有権を工藤良亮の遺産相続人より承継取得した原告に対してもその効力を有することが明かである。従つて本件買収処分には原告主張の如き無効事由はないといわなければならない。然らばこれが無効を前提とした売渡処分の無効を争う原告の主張も理由がない。

尚附言すれば地目山林の本件不動産を未墾地買収したことにつき無効訴訟をもつて争うことは許されない。

よつて原告の請求はこれを失当として排斥し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦克已 片桐英才 高木実)

(別紙目録省略)

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